キャラクターが病むということ

序文でも書いてあるように、「キャラクターが病む」という言葉の意味を探ることから、キャラクターの内面性についての考察を進めます。
まず、キャラクターとは何なのだろう。日本語にすれば登場人物になるこの言葉は、日常でもしばしば使われるようになったが、基本的には(物語に)登場する人物を表している。
物語の登場人物はその性質上、本来的には物語に拘束される方向性を持つ存在だと言える。そして、物語というものが構造を持ち類型化されうる以上*1、それに伴って登場人物も物語よりは緩い程度で類型化される。
この緩い類型化を「お約束」と呼んだりすると私の定義ではしておくことにする。*2
私の定義では、この「物語」と「お約束」に完全ではないが、それに近い程度で拘束される存在をキャラクターと定義したいと思う。
そして、現在の日本では「記号」というものにキャラクターが方向付けられるという「お約束」が、一定の分野では暗黙裡に定められているとしたい。
つまり、「物語」「お約束」「記号」によって規定される存在、言い換えるなら「「こういうシチュエーションでは、こいつはこういうことをするんだろうなあ」という確率分布をーありがちな状況の数だけー重ねあわせたもの」*3が現在の日本の一定領域でのキャラクターの意味だとしよう。
ここで本題の「病む」という言葉の意味に入りたいところだが、その前に別の言葉を検討してみたいと思う。それは「壊れる」という言葉だ。
私達は一定の状況で「キャラクターが壊れた」という表現をすることがある。この表現は「病む」という言葉と十割に近い頻度で、交換可能なように思える。
例えば、桂言葉が病んだ、ではなく、壊れた と表現しても、意味はそれほど変わらないのではないだろうか。*4
そうであるなら「壊れる」という言葉の意味は示唆的である。ここで壊れるとされるものは前述の様に確率分布の集合体であり、それが壊れるということは、分布予想の外にキャラクターの行いがはみ出たことを意味するからだ。
この意味が「病む」という言葉の意味とかなりの部分で交換可能であるとするなら、その表現の微妙な差異にこそ、キャラクターの内面性に至る道があるのではないだろうか。*5
ここで、今までの考えを元にヤンデレと言われるキャラクターを分析してみよう。今では代名詞でもある言葉様でもいいが、暴力面に特化しすぎな印象があるので、空鍋こと芙蓉楓を分析するとしよう。
楓は主人公と同じ家に住み生活の世話をするという、「幼なじみ」という類の記号で掌握されるキャラクターの一種である。原作では主人公を慕いながら、自分の過去の負い目から、自らの幸せを拒むキャラクターとして描写されている。
だがアニメ版では、何も入ってない鍋をかき回したり、主人公の恋人に首環をかましたり、主人公の寝込みを襲ったりする。これは明らかに「幼なじみ」という記号からは逸脱した行いであり、「壊れた」という表現を使用可能だと言えるだろう。
しかし、芙蓉楓はヤンデレであり、「病む」という言葉には明らかにキャラクターの存在が前提とされている。*6そうであるなら、「壊れた」キャラクターを再生させ、はみ出た行動を確率分布内に再定位できることが、「病む」と「壊れる」という言葉を分ける何かであるはずだ。
それは何だろうか。定義によればキャラクターを規定する要素は三つしかない。
一つ目は「記号」。これは問題にならない。「幼なじみ」という規定を逸脱したからこそ、楓は「壊れた」と表現可能なのだ。
二つ目は「お約束」。これはキャラクターが「記号」に規定されるのが「お約束」な以上、やはり無理だ。*7
三つ目は「物語」。全てを逸脱すると物語そのものが崩壊すると考えれば、このレベルでの規定が分布範囲を再定位するはずである。「病む」という言葉の含意を考えれば、それは「物語のキャラクターは別個に特別な規定が無い限り、人間として扱われる」というものではないだろうか。
そして、この規定こそがキャラクターの内面性の根源でもある。つまり、鑑賞者の「人間の精神構造の平均的な了解内容」が、キャラクターの内面性なのである。
まとめれば、「キャラクターが病む」という表現の意味とは、「「こういうシチュエーションでは、こいつはこういうことをするんだろうなあ」という確率分布をーありがちな状況の数だけー重ねあわせたもの」の限界状況を、「物語のキャラクターは別個に特別な規定が無い限り、人間として扱われる」という規定によって持ち出される「人間の精神構造の平均的な了解内容」によって解決し、キャラクターを再構築できることなのだ。*8

以上で終わりですが、傍論が少し続くかもしれません。どうも当たり前のことを格式ばって書いただけな気がする。傍論はもう少し面白く書きたいところ。
傍論

*1:構造とは、起承転結とか地の文を指す。

*2:主人公補正とか登場人物の有意味性を指す。

*3:新城カズマライトノベル「超」入門』より抜粋

*4:感覚の問題な気もする。意見求む。

*5:人が壊れたとは言うが、機械が病んだとは意味は理解できるにしても、普通は言わないということ。

*6:「壊れたキャラクターが病む」という表現は意味が通らない。

*7:自分定義だから、卑怯な論旨展開もする。だけど、それ以外にもヤンデレとか言ってる分野には、そういうのを抑制する「お約束」があるとは思う。

*8:不可能な場合を「壊れる」とするが、キャラクターに即して考えれば同じことなのか?。