5秒童話

5秒童話 (ジャンプコミックス)

5秒童話 (ジャンプコミックス)

ミステリの「フェアさ」というものは、文字という個々の情報量が均一に近い表現形式を基準として成立しているので、漫画の中に犯人を特定するための全ての情報が開示されていても、絵図という表現形式の持つ自由さが邪魔をして、いまいち「フェア」な感じがしないという問題がつきまとったりするものなのだが、この作品ではそこが解決されているように見える。
マンションの屋上から落ちていく間に通り過ぎていく部屋の様子を通して主人公が墜落の真相を探り当てていくという「形式」によって、作者は物語の中の情報にある種の秩序を与えることに成功している。*1猫しかいない部屋も、美女たちが着替えをしている部屋も、クラスメートが拉致監禁を企てている部屋も、部屋という同一の規格の中で提示されているという面では平等だからだ。言い換えるなら、部屋という単位が一種の「文字」となって『5秒童話』という作品にフェアなミステリが成立するための土台を与えているわけである。
とはいえ、本作が精巧な土台の上に築かれた精巧なミステリであったかと言えば、残念ながらそういうわけでもない。*2連載という形を取った以上は仕方がないのかもしれないが、アメコミの件は後半に詰め込み過ぎだし、メガネの件は反則に等しいだろう。
しかし、それを差し引いても、プラスの方が際立つ作品だとは思う*3。良作。

*1:結局、ミステリ全般において「秩序のようなもの」しか存在せず、「ようなもの」とは究極的には象徴から意味をデコードしうるという恣意的なプロセスなのではないかという疑惑はあるにしても

*2:そもそも目指されていたのはアメコミのオリジンものであって、ミステリ要素は迷彩だという見方もあるけど

*3:何了了のアヒル口とか