シムーン『堕ちた翼』

EMOTION the Best Simoun(シムーン) DVD-BOX

EMOTION the Best Simoun(シムーン) DVD-BOX

師走ですね。言い訳もせず、粛々とブログを更新。
今更ながらに気になったので今見ているのですが、一話目の時点で魅了されてしまいました。今まで見てなかった自分に呪詛を送りたくなる出来です。
ちょっと座り心地の悪いアニメではあって、特に一話では、男の欲望というよりは、その欲望を可能にしている仕組みが作品の中に落とし込まれているような、そういった印象すら受けます。
端的に言うなら、シムーンに乗る少女たちを主役しながら、ナレーションが敵国の少年兵によって担われているという一話の構造がその原因ではあるのでしょう。しかし、それを明瞭に伝えてくる研ぎ澄まされた構図こそが、この作品を通しての魅力の一つなのではないかと思います。*1
例えば、一話には「見ては駄目!目を見ては殺せない!」という印象的な台詞が出てくるのですが、この背後には敵国の飛行船が男性器に、そこから出撃する兵士たちが乗る飛行機が精子に似ているというシンボリックな構図があります。この構図に従うなら少女たちが行う翠玉のリ・マージョンが子宮を暗喩していることはほぼ自明であり、ここで「見ては駄目!目を見ては殺せない!」とは、まさに受精の、排除されるべき異物が自らの内部に巣食ってしまうプロセスこそを意味していることになる。だからこそ、ナレーターでもある少年兵は何か恍惚しながら死んでいくことが出来る。
このような象徴的な構図は他にも存在するのですが、*2あえて矛盾するような主張をすると、だからシムーンが素晴らしいわけではありません。ここにどれほど冴え渡った意図が存在していても、それは作品の一要素であって、いくら集めても全体には遠く及びません。
むしろ、そのように細部に言及していくことが、最初の印象を裏切り、自分の座り心地を良くするために働いてしまうところがある。だから、「見ては駄目!目を見ては殺せない!」とは、私たちに対する忠告でもあるのでしょう。その果てに何が見えるのかは、まだ私も知りはしないのですが。傑作。

*1:まだ全話見てないのだけど

*2:オルフェウスの神話のように下へと降りていくネヴィリルとか