猫物語・白

猫物語 (白) (講談社BOX)

猫物語 (白) (講談社BOX)

一月ぶりのご無沙汰。9割の自己責任と1割のtwitterと言ったところでしょうか。今月こそ出来る限りは更新していきたいと思います。
西尾維新の新刊ですね。黒の方の感想を書いていないのですが、向こうはある種の復習とでも言うべきか、改めて書くようなことも大して無かったように思うので、こちらだけ書きます。
読む前は新シリーズと銘打たれてるとはいえ、これまでの延長線上なのだろうと思っていたのですが、蓋を開けたらかなり違いました。キャラクターの初期配置が変更されているとでも言うのか。前作までと違って、阿良々木暦がいなくてもヒロインたちが自分で自分を助けていける世界になっていたように思います。
もしくは前シリーズを通して、世界のルールが変わったと言うべきなのでしょうか。この話に限って言うのであれば、羽川翼戦場ヶ原ひたぎという友達が出来たのが、ルールの変更ということになります。
友達が出来たくらいで世界のルールとは大げさなと思われる方もいるかもしれませんが、人間の観測する範囲にあるものは世界のルールも含めて大体が何らかの人工物なので、誰かが一人いるかいないかで結構変わるものです。
あるいは無理に一般化しなくても、友達甲斐に溢れるがはらさんを見れば説明の必要はないのかもしれません。正直、本編よりそっちの方が読んでて泣きそうになりました。情緒不安定な自分と向かい合って、泣いたり笑ったりしてくれる友達。そんな人がいたら、ほとんどの問題は乗り越えられたようなものです。
例えば、両親からネグレクトを受け、それでも自分の心を削りながら一生懸命に生きてきて、ついに限界に達して今まさに転落しかかってる女の子がいて、救いの手一つ差し伸べられない。そんなことは現実には掃いて捨てるほどあるし、そういう現実をすくい取っていく物語だって価値はあります。*1ですが、維新が今回書いたのはそういう物語ではなかった。羽川翼には彼女の頑張りに見合った素晴らしい友人がいて、がはらさんや周囲の人間に支えられて、自分の問題と向かい合うことが出来た。もしかしたら、彼女を支えた人達は「羽川翼が勝手に助かっただけ」だと言うかもしれません。彼らは阿良々木暦のような誰でも助けるお人好しではなく、助けたいと思った人だけを助ける人達に過ぎないからです。*2
たぶん、これからのお話も、それぞれのヒロインにそのヒロインに見合った結末が用意されているのだと思います。助けられるべき人に、手が差し伸べられる世界。それこそ阿良々木暦が信じてもいないのに信じたいと願っている世界で、少しメタ的に言葉遊びをするなら、そんな彼の行為が化物語という世界のルールは塗り換えた最大の要因だとも言えます。*3
だから、最後には彼に見合う形で彼自身が幸せになるのだと、信じてもいない世界を信じさせられる羽目になるのだと、そんな甘ったるいハッピーエンドを気長に待ちつつ、とりあえず文章を閉じたいと思います。傑作。

*1:猫物語・黒』はある側面でそういう物語だったとも言える。

*2:それすらも私達には近くて遠い奇跡なのだけど。

*3:メインヒロインのキャラ崩壊が最大の要因だという意見もあるかもしれないけど。