『月は東に日は西に』雑考

月は東に日は西に ~Operation Sanctuary~ 通常版

月は東に日は西に ~Operation Sanctuary~ 通常版

更新のための更新という気がしないでもないですが、とりあえず書いてみたい。
正直に言えば、萌えゲーの感想の難しさというものに突き当たっていて、どのように書けばいいのか途方に暮れている。ヒロインへの愛無く、ヒロインについて語ることの野蛮さというものを強く感じるのだが、残りはエロゲへの愛で補えばいいと自己承認をして、軽く気持ちで始めてみよう。
私がこのゲームで印象に残ったヒロインは二人いて、一人は野乃原結、もう一人は渋垣茉理だった。前者のシナリオには感心し、後者のものには爆笑したのだが、その相反する感情は実のところ同じ事柄を原因としている。
結シナリオにおいて、ルートの後半で彼女の正体がロボットであることが告げられる。この情報を知ることによってゲームプレイヤーは、結が主人公より年上でありながらツルペタキャラであるのはロボットであるからであり、彼女とのエロシーンをマルチから続く系譜に位置づけて処理することになる。ここでロボットが何故に人間とセックス出来るのかを問うのは野暮に属する。何故ならエロゲを多くプレイした人間にとって、「ロボット」属性をもったヒロインとの性行為は何ら珍しい事柄ではないからである。
しかしながら、このシナリオにはどんでん返しが存在し、結は自らの過酷な任務に耐えるために自身をロボットだと思い込んでいただけの人間であることがラストでは明らかになる。ここにおいて結というヒロインに対する解釈は180度転回する。結が主人公と性交渉を持てたのは、彼女が人間であったためであり、そのツルペタぶりはただの身体的な特徴に過ぎなかったと解されるだろう。もちろん、ここで彼女の「ツルペタ」さの理由を問うのは野暮になる。そんなキャラクターいくらでも存在するからだ。
この鮮やかな逆転劇を支えるのは、彼女が「人間」か「ロボット」かという問題ではなく、どちらもエロゲの中においては同じ程度に整合性を持った解釈でありえるという事実である。エロゲというジャンルに対する醒めた意識。このシナリオにはそれが結晶している。
逆に茉理シナリオは、それらが悪い方に出てしまった例だと思うのだが、このゲームは2003年の作品なので*1あまり悪く言う気にもなれない。
金髪ツインテールの妹キャラ。主人公のことを密かに慕いながらも、それを素直に表現できず強気に振舞うツンデレである茉理に、さらに「難病」という記号を塗り重ねてしまう発想。その塗り重ねの無造作さには、明らかに結シナリオに見られたのと同じ意識が垣間見える。しかしながら、こちら側のシナリオは失敗しているように思える。少なくとも私にとってシリアスなはずな後半の展開はギャグのように感じられた。
たぶん、私たちはキャラクターの記号に対する作者の無造作な振る舞いを許容することが出来る。だがそれは、本当に作者が無造作に記号をいじっているからではない。この二人のヒロインが示しているのは、そういった当たり前の話である。おそまつ

*1:『妹ゲーム大全』が2004年