霞外籠逗留記

霞外籠逗留記(かげろうとうりゅうき)

霞外籠逗留記(かげろうとうりゅうき)

ライアーソフトの別レーベルであるレイルソフトの一作目を飾る本作ですが、その志を存分に堪能できる中々の作品でした。
ライターを担当している希(まれに)が紡ぎだす純文学調のペダンティックな文章と、作品全体の空気が実に調和して、それが先に紹介したシステムとも混ざり合い、かなり濃密な伝奇的世界観を作り上げていると思います。作り手として目指したところは正にそれなんでしょうから、そこら辺は流石ライアーの系譜だなと言ったところですね。
物語そのものに目をやれば、かなりシュッとしているというか、理知的に組んでるなという印象を受けました。1ルートやれば分かるんだけど、この物語に出てくるヒロインの多くは、心理学で言うところの「影」に相当する存在なんですよ。*1たぶんタイトルもそこと掛かっていて、主人公が彼女達の願いを叶えたいと願うことが、そこにある種の共感を覚えるということが、主人公とある登場人物の鏡像的な関係を描き出してる。意図によって全体を統制された物語というのは、やっぱりエロゲーとしては少数派なので、それだけで随分と高評価ですね。
そして、物語の最後を締めるシナリオが、私みたいな属性持ちには最高のご褒美だったりしたのですが、それを差し置いても、作品の雰囲気に相応しい抒情的なものだったので、作品に期待したものには全て応えてもらったかなというのが率直な感想ですね。理と情のバランスがいい塩梅かと思います。
ただ、ずっと迂遠な表現での描写が続くので、少しテンポに欠けるところもあったかな。一場面の描写が長いせいで、物語の絶対量が少ないという印象も受けました。そこを逆手に取って、掌編仕立てにするという工夫もあって、それは良かったんですけどね。
全体として見ると少しダレたかなとは思います。最後の方の動きのある演出を見ると、必ずしも解決できない問題ではなさそうなので少し残念でした。
まあ、濃密なテキストが縦に流れていくのを、目で追っていくというのは結構な快楽があって、どっちを取るかと言われれば、そこは目をつぶってもいいかなとも思うのですが。
無条件に薦めるには、少しクセのある作品ではありますが、体験版をやって少しでも琴線にふれるものがあれば、やって損はないレベルです。仄暗く淫靡な、そんな物語が読みたい方は是非に。

*1:「人倫」「幼気」「反発」かな。あと鬼女の腕を所有するというのは、そこだけが綻んでることなんですよね。