桜井光について思うこと

桜井光のキャリアの全てをプレイしたわけではないから断言は出来ないけど、Liarsoftで出してる作品だけで、基本的な方向性は測れるとは思う。
嘘屋でのデビュー作である『ANGEL BULLET』は、一人で全編を担当してないせいもあって、今となってはパイロット版の『赫炎のインガノック』という印象すら受けますが、逆に言えば最初から一定の方向性を持ったシナリオライターだったわけです。*1
前にも書いたように、この方向性はたぶん「魅力的な虚構世界の構築と突破」なんだけど、桜井光の変わったところは、世界が分かりやすく「悪い」ところですね。
たぶん作品世界が完璧に作品中で語られない背景には、「悪い」世界よりも、そこからの突破に重点を置く態度があるんでしょう。*2
この分かりやすい「悪さ」が「笑い」とか「生命」と対立構造を持って進むと桜井作品は成功を収め、この対立を多元化するとグダグダする傾向があるように見えます。*3
セレナリアはシナリオ面では伏線を拾い切れてないので成功とは言えないけど、それでも楽しめるレベルに達してるのは、当初から二項対立にシナリオが収束することが明らかなので、その部分の期待を裏切らなかったことが大きい。当たり前だけど、ストーリーを大切するライターなんですよね。*4
誉めるとするなら爽快で、貶すとするなら単純ということになるんでしょうか。*5けど実際の話、突破するためだけに世界が存在するのは今時のエロゲーでは割と珍しいような。ウルトラマンだって怪獣を殺さない時代だからこそ、こういう一本気なのも必要な気はします。
正直、もう一本見てみないと自分の中では評価が確定しないんだけど、作品としてのレベルは上昇傾向にあるので、期待のシナリオライターと言ったところでしょうか。

*1:ABとセレナリアとインガノックは同一世界という設定。

*2:個人的には、常にメガラフターくらいの精度は欲しいけどね。

*3:インガノックは最終局面で、その二項対立が完全に否定されるけど、物語の終わりでなら、対立項の消え方の差に過ぎない。

*4:先輩にあたる星空めておは、興味の中心がストーリー上での突破ではなくて、その一段上のレベルで起こる突破というか、その突破がプレイヤーにどう映るかにあったように思う。

*5:インガノックは爽快ではないが、後味はEDの処理で簡単に変わるし、多々指摘のあるように一回ごとのストーリーは特撮ヒーローのそれ。