天使から百年(2)

天使から百年2  天使から零年 (富士見ファンタジア文庫)

天使から百年2 天使から零年 (富士見ファンタジア文庫)

光陰矢の如しですね。そろそろ更新する癖を戻さないと、色々と支障をきたしそうなので、とりあえず一発目。
この本は、変な小説というよりは駄目な小説で、それなりの数の物語を読んできた人なら、この小説に存在してしかるべきだったシーンとか、張られておくべきだった伏線とか、そういうものがかなり具体的に思い浮かぶと思います。
新キャラはよく分からない感じで登場するし、主人公の性格は変化というには生温いぐらいに激変するし、物語の核心に迫るような事実はあまりにも唐突に提示されます。
作者である野梨原花南が20年近いキャリアを持つ作家であることを考えれば、この杜撰さは到底許容できるものではないと言っていいでしょう。それでいて、私はこの小説が結構好きだし、次の巻も買うだろうなと思うわけです。
この2巻の最大の見せ場は、何とも言ってもこの物語の主人公であるカイ・ハイ・パーグッド・ラック*1とイズシールという影を抱えたイケメンの先輩との精神戦なんですが、私は読んでて薄ら笑いが出ました。
つまり、「殴った俺の手も痛いんだ」ではないですが、他人の心の中に探りを入れたら、探った方も無傷ではいられないので、普通はある種の遠慮が存在します。
しかし、カイは遠慮を全くしません。最初こそ、まだ言い訳がきく状況ではあったものの、そこで年配者の余裕を見せて仕切り直そうとするイズシールに向かって、カイはさらに言葉を重ねて、彼のガードをがしがしと削っていきます。
普通はこれをやると、人間関係が持ちません。作中でもイズシールは放っておくしかないという冷静な判断が下されていて、カイの行動は基本的にやってはいけないことだと考えられます。それでもカイはそのように振舞うし、その結果は善い方に転がっていく。
ご都合主義だと言えばそれまでですが、この展開を底から支える野梨原作品特有の朗らかさみたいなものがあって、それが作品にある程度の説得力ようなものを付与しています。*2
その少しズレた朗らかさによって作品の欠点を全て帳消しにするとは思いませんが、私には渋々目をつぶらせるくらいには魅力的で、文句を言いつつ作者の作品を買い続けている理由でもあります。そう感じる人が多いからこそ、20年近く現役作家でもあるのでしょう。
非現代的な軽さの魅力とでも言うべきか。妙な感触がある作品だとは思います。
お勧めとまでは、いかない感じ。

*1:人の名前にツッコむのは無作法だと思うんだ。

*2:「力」と表現するには、あまりに淡いものだけど。