『夜明け前より瑠璃色な』についてのチラシの裏

夜明け前より瑠璃色な 初回版 (DVD-ROM版)

夜明け前より瑠璃色な 初回版 (DVD-ROM版)

文章がまとまらなくて愉快な気分になってきたので、一度リセットする意味を込めて晒してみる。新しい年の幸先のいいスタートってやつですね。

  • フィーナ

フィーナ:欲張りだけど、私には立場も達哉も両方必要なの
     どちらがかけても私は私ではなくなってしまうと思う
フィーナルート 7月26日

フィーナが自分の問題に提出する答えが、この作品における一種のマニフェストに当たる。つまり「姫」という社会的な役割から切り離された「本当の自分」のようなものは存在しない。自分自身というのは社会的な相互作用の中で成立するようなものに過ぎないのだ。
このような認識がシナリオを重視したエロゲにおいて必ずしも常識でないことは、それほど説明する必要のない事柄だろう。*1大雑把に言ってしまえば、この認識からのバリエーションで他のヒロインのシナリオは理解出来るのかもしれない。

  • 菜月

達哉:お互い気持ちよく過ごせる、安全地帯に似たフィールド
菜月ルート 8月2日

「幼なじみ」という関係性を称しての言葉。

菜月:私のこと、いっぱい勉強してね
   達哉のことも勉強させてね
菜月ルート 8月12日

新たな関係性の学習。恋人であることが不断の努力と結び付けられている。自己が社会に向けて開かれている以上、変わらぬ愛はありえない。嘘をつく、運命の否定。あまりに普通で、理解が届かないシナリオ。何ゆえに鷹見沢菜月のシナリオでだけ遠山翠は恋敵として現れるのか?

  • 麻衣

達哉:血の繋がりがなくても家族になれる。いや、なってみせる。
麻衣ルート 7月10日

家族を演じることで「兄」になる。あるいは「妹」から別のものへと移行する。この作品の中では「家族」という関係すらも、社会に認められることに基盤を置いている。またエピローグで商店街の人たちの反応が重要視されるのは、ヒロインの幸せが主人公に愛されることだけでは完結しないからだ。

  • さやか

「頭の下げたくない相手」という言葉で称されるさやかの両親は、「姉」である彼女との対比として存在している。前の二人と違って、さやかは保護者としての自分の立場を大幅に変動させない。そのため血縁でありなが保護者の役割を果たさない人間を出すことによって、彼女が自ら望んで現状を維持したことを強調している。

  • ミア

このシナリオもまた、ミアは「メイド」であり続けることを選択するので、対比される存在が出てくる。それは彼女が拾う小鳥で、この鳥は成長して自由に外で生きることが出来るようになった後でもミアのところに留まる。これは職業選択の自由がなかったであろうミアが自ら望んで、フィーナの元に留まっていることを暗に示している。
また「諫言を口にする」という行為をミアが行なったとき、主人公がその行為の意味をフィーナに説明する衝動にかられるのは*2、彼が愛したミアという少女のあり方が「メイド」であることと分かちがたく結びついているからであり、彼女の「メイド」としての行為が理解されないということは、そのまま彼女の全人格的な否定につながってしまうからだと言える。

  • リース

強制的に六人目に回されるリースのシナリオには唯一エピローグが存在しない。つまり、彼女だけがこの作品においてヒロインとして不完全な存在であることが暗に示されていると言える。
シナリオ中においてリースの自我は消えかけるが、これは彼女が社会的な役割だけで存在しているようなキャラクターだからだと考えることが出来る。*3前の5人のヒロインの後でこの状態を見せられると、その歪さは明らかであり、丁寧にそれを非社交性という形で強調までしてくれている。
主人公はその歪さを恋愛を通して解消していくわけだが、エピローグの不在が告げるように、このような恋愛のあり方をオーガストは認めていないらしい。"健全"なことだと思います。

フィーナ姫、自己を実現するの巻。先に引用したフィーナルートでの発言は要するに、一人の恋人と百人の他人の命を天秤にかける問いに対して、百一人救うという答えを返すことに似ています。*4リース以外の他のヒロインのシナリオというのは、ある側面において、この答えが奇麗事ではないことを補強するために存在している。
月に行ってから、けっこうな置いてけぼり感があるのだが、アナザービューとかエロシーンにおける主人公の名前の執拗な連呼とかを考えると、必ずしも展開の下手さに回収出来ないのかもしれない。

*1:周囲から誤解されている彼女の本当の姿を分かってあげられる俺みたいな構図

*2:そもそも激しやすいタイプではあるが

*3:定年後に一気に呆けちゃう人っているよね。

*4:家族を幸せに出来ないやつが〜