回路

回路 デラックス版 [DVD]

回路 デラックス版 [DVD]

黒沢清の代表作にして、海外でもリメイクされたJホラー。
私はホラーをあまり見ない方なので、Jホラーという文脈にも無知であるのだが、この作品はJホラーとしても異色に属するのではないかと思う。
この物語を論理的に説明しきることは難しいのだが、要点は三つほどある。一つ、「開かずの間」と呼ばれる儀式を施した場所で幽霊に会うと死ぬ。二つ、幽霊は決して人間の死を望んでいるわけではない。三つ、それにも関わらず物語の最後で人類は滅亡の危機まで行き着いてしまう。
幽霊が語る言葉は単純で明快だ。苦しい。助けてくれ。死とは永遠の孤独に過ぎない。ここで語られるのは、死後にまで延長された苦痛ではない。生者と死者を貫く人間という現象の根底である。
反対に、登場人物たちの言葉や行動は、何一つ力をもたない。差し伸べた手は全て届かず、通じたと思った瞬間には、もう離れている。それ故に、幽霊に出会った登場人物たちは生きることを諦めしまうしかない。世界には彼らの生存の意味を担保しくれるものなど存在しないからだ。
冒頭のタイトルにおいて「回路」の「回」の字の内の四角が赤く染まっているのは、扉を外から赤いテープで貼り付ける「開かずの間」の儀式を直接に表している。しかし、それ以上に、私にはそれが強調する四角というモチーフを考えずにはいられなかった。映画の、そして私たちの日常に、なんと四角は溢れていることだろうか。作中で重要な役割を果たすパソコンの画面も、図書館に整列する本棚も、道行くとき目に入る看板すらも、全てが四角形で出来ている。だが、その四角たちは決して私のために四角形なのではないのだ。
世界には私たちの生存の意味を担保しくれるものなど存在しないのだろうか。答えの分かりきった自問をしてみたくなる、そんな映画でした。