ウォッチメン

ウォッチメン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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近頃エロゲー関係ばかりだったので、たまに映画の感想など書きたいと思います。
この『ウォッチメン』は見る人の評価が分かれるタイプの映画ですね。全編を通して暗鬱とした印象を与える映画で、痛快ハリウッドアクションを期待した人には拍子抜けでしょう。アクション描写は基本的に、スーパーヒーローの民間人への一方的な暴力とヒーロー同士の内ゲバだけです。*1この映画の構成しているのは底知れぬ不安と過剰な悪趣味さであり、善と悪はその舞台の上で踊る道化でしかありません。
ボブ・ディランの曲とともに映されるヒーローたちの過去は、輝かしくも醜く、この作品がニクソン政権の時代のアメリカを舞台しているというのは、何とも示唆的な気がします。ワルキューレの騎行をBGMに北ベトナムに侵攻するスーパーヒーローという矛盾に、濡れ場で展開されるヒーローのどうしようもなさに、乾いた笑いを浮かべられる擦り切れた神経の持ち主だけが、この作品を愛することが出来るのでしょう。
映画に登場するヒーローたちは、その大半が何処か歪みを抱えています。語り手であるロールシャッハは正気のタガが外れかけてるし、その相棒ナイトオウルは逆に欲望を押さえ込み過ぎてED。作中最強のヒーローであるDrマンハッタンはその超絶無比な能力故についには自らを神と任じ、自分をキャラクター商品化して社会的成功を収めているはずのオジマンディアスは、自らの孤独をあがなうために大惨事を引き起こす始末。
しかしそれは特別なことではなくて、人が世界というものと関わっていくときに不可避に訪れる現象になのかもしれません。誰よりも真摯に世界を変えようと願ったはずのヒーローたちが、誰よりも心を軋ませていったという最低のジョーク。それこそが、この映画の不安と悪趣味さを支える基盤なのです。
語り手であるロールシャッハはその名の由来のように、一つの問いを体現した存在だと言えるでしょう。狂人として冷笑家として偽善者として臆病者として神として生きれるとするなら、混沌と不条理からなる世界で私たちはどう生きるべきなのだろうか。物語はその問いに答えを出さずに幕を下ろします。たぶん変わらない世界を高らかに謳いながら。傑作。
『300』の監督の作品なんですが、映像美的なものは期待しない方がいいです。むしろ『ダークナイト』それも、ジョーカー分を抜いて登場人物全員に平等に振り分けた感じの映画ですね。ある意味で凄いグダグダです。しかし、個人的にはかなり好き。おすすめ。

*1:囚人への有無を言わせぬ暴力描写とかアレですよね。