花やしきの住人たち(3)

というわけで三巻で完結を見た今作ですが、個人的には結構気に入ってる作品だったりします。二巻まで読んだときは、どうにも咀嚼しきれない部分があったんですが杜若が海で

(地球上の不幸な人たちから見たら)僕なんて すごい幸せじゃん!

というシーンを見て、この作品が好きになりましたね。なんか二人が自分たちを悲劇の中心人物みたいに思ってるのが、どうにも嫌だったんですよ。主人公もそれなりに悲惨な境遇にいるのに、そことの相対化が測られていない感じがしたんだけど*1、このセリフは素晴らしい。
絶望ってそういうものじゃないですか。世界で一番不幸だったら自分に酔ったままでいられるのに、普通に不幸だから、生きるってことが難しくなるんだよね。
三巻の冒頭に

「住むところがここしかなかった。」そんな後ろ向きな理由でここに住んでいたのは、多分 俺だけじゃなかったんだろう。

という主人公のモノローグが入るんですが、これは物理的な意味だけではなくて精神的な意味でもあると思うんですよ。そして、それが物語の骨子でもあると気がします。
拠りどころと言うべきなのか、心の安寧を与えてくれるものを喪失してしまった人たちの物語なんだよね。その象徴がつまり「家」なんじゃないかな。
物語の結末はここでは伏せておきますが、こういう形で終わるというのは誠実なやり方だと思いますね。寂しいことだけど、他人には越えられないし、越えてはいけない線があるものですから。
救った人がいて、救われた人がいて、救われなかった人も、救いきれなかった人もいる。だけどいつか花咲くように、みんな幸せになればいいのにと祈ってやまない。そんな物語でした。お勧め。

*1:作品の雰囲気を見る限り、善人たちで出来た世界ではないようなので、違和感があった。