時砂の王

分類すれば時間SFなんだろうけど、別段そこら辺の設定に重点が置かれることもないので、ファンタジー読みにも受け容れやすい良作ではないでしょうか。
それでも時間改変者の苦悩や孤独、現地人との交流の中で生まれる歪みとなど押さえるところは確実に押さえていく辺りに、小川一水の円熟を感じさせます。
読んだ人の多くは、途中でラストシーンがある程度想定できると思うんですが、それでも最後まで十分読ませるし、読了感も含めて個人的には満足いく一品でした。
一つ思ったことを書くとすれば、この物語はかなり意識して焦点が絞り込まれてるんだけど、完璧に一点にピントが合ってるかと言えば、そういうわけでもない。絞り切らなかったのか、絞り切れなかったのか、そこら辺が多少気にかかりました。
小説を読んで有り余る筆力を感じる、一人の才能ある作家の最盛期に立ち会える幸福を味わいながら、自分でも持て余し気味なのかなと贅沢な心配をしてしまうわけです。*1
小川一水を知らない人こそ読んで欲しい一作。これを読めば小川作品の歴史を遡りたくなくなること間違い無しです。お勧め。

*1:邪馬台国の政治を違和感無く書けるだけで、十分凄いことではある。