『偽物語』を読んで思ったこと

偽物語(上) (講談社BOX)

偽物語(上) (講談社BOX)

偽物語(下) (講談社BOX)

偽物語(下) (講談社BOX)

今更ながらに読みました。上巻は維新にしては珍しく、「偽物」という言葉に振り回されているという印象を受けたのですが、下巻は唸ってしまいましたね。
偽物語』はヒロインたちの髪型の変更が各所で描写される物語であって、それがヒロインたちの呪いにも似た在り方の変化と密接に関わっていることは、作品内でも指摘されているところです。
もちろん、この髪型の話題は下巻における目くらましの一種ではあるのですが、それ以上に、画一的と称してもいいぐらい登場人物に髪型を変えさせている。若いうちは成長するものだとは言うものの、ここら辺は相変わらずの西尾維新であるなと私は思いました。
しかし、今回の物語で一番驚嘆すべきところは、ツンドロ化したと言われる戦場ヶ原ひたぎでしょう。下巻において、彼女は伝聞の形でしか出てこないわけですが、これは意図的に物語の中から排除されたと考える方が自然です。察するにガハラさんを物語から「上が」らせてしまったようですね。これは正直、びっくりしました。
主人公を置いて、メインヒロインが先に「上が」ってしまった物語といえば、やはり私にはハルヒが思い浮かびます。加えるなら、あそこまで行ってハートアンダーブレードを切捨てられなかった暦に、私は消失におけるキョンの選択を見るわけです。
もちろん、「日常」と「非日常」という選択肢は戯言シリーズにおける西東天の処理をめぐっても展開されたものです。ですが、暦と忍の物語から戦場ヶ原ひたぎが完璧に切り離されていることからも分かるように、化物語シリーズにおいては当初の段階から、この展開は意図されていたように見受けられます。そこまで来れば、ハルヒ以後なんて言葉は野暮と知りつつ、その先を見てみたいというのも人情というものでしょう。
今度の軸は「彼女」ではなく「家族」のようだとか、維新は主人公のトラウマの解明みたいな野暮ったいことはしないだろうとか、個人的には発売予定の二冊に期待が膨らんで、しぼむことがありません。
私たちは新しいビルドゥングスロマンに出会うことになるかもしれない──ボクはキメ顔でそう言った。という感じで〆