チャイルド44

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

世間の流れに取り残されていないことをアピールしたくて読んでみました。今年度このミス海外部門一位という名に恥じない、質の高いエンターティメント作品だと思います。
解説にも言われていますが、主人公であるレオ・デミドフの職業を国家保安省の捜査官にしたことによって、レオの内省と外部の事実の両面から、共産主義下の理不尽な国家体制が浮かび上がらせる構成は絶妙ですね。
理想国家であるソ連では犯罪は起こりえないというテーゼと、子供たちを殺した犯人として共産主義者ととして相応しくない知的障害者や同性愛者たちであるという歪んだ結論は、主人公が物語冒頭では歪んだ論理に従う側にいたからこそ、なんとも不気味な説得力を持ちます。
捜査官の経験から導き出される常に死と隣り合わせの緊張感が作品全体にみなぎり、絶望的な未来を回避していく逃亡シーンの数々は読み出したら止まらない面白さ。ハリウッドで映画化が決まってるそうですが、これは読んだら誰しもが映画化を考えずにはいられない類のサスペンスですね。良くも悪くもビジュアル的です。
個人と組織というのは近代以後における普遍的な主題に絡めつつ、家族愛や人間としての倫理という問題にもそつなく触れくるし、娯楽作品としては文句のない出来だと言えるでしょう。かなり読みやすいですしね。
少し文句を付けて高踏ぶるとするなら、物語の焦点があまりに主人公に集まり過ぎている印象はありました。これだけの世界観を描き出しながら、主人公以外のキャラクターの処理がちょっと気の利いたエピソード集で終ってるのは惜しいですね。主人公の物語とは別に、もう一本並行するストーリーがあっても良かったような気はします。
とは言え、多くは望めば切りがないわけで、今のままでも十分過ぎるほどの良作です。空いた時間に読めば、良質の読書体験は間違いなし。正月休みの空いた時間にでもどうぞ。お勧め。