天は赤い河のほとり

久しぶりに読み直す機会を得たのですが、ダイナミックな漫画ですよね。今の漫画の基準で言ったら大味という評価も可能なストーリーだとは思うのですが、枝葉を潔く切り捨てることによって、一種の形式美すら備えていると言えるのではないでしょうか。
物語は現代日本に住む少女ユーリが、古代ヒッタイトに贄として召喚されるところから始まります。そして、異国の地で生贄にされそうになったユーリを救った男こそ、後にヒッタイト帝国最大の領土を確立する名君カイル・ムルシリその人なのでした。そして、ユーリとカイルは、皇后の陰謀や隣国との戦争に翻弄されながら、互いに思いを強めていくわけです。
まあ、ここまで書けば分かると思うけど、二人が全巻通して近づいたり遠ざかったりする話なんだよね。もう本当に基本それだけなんだよ。けど、そこに王道の快楽があるわけです。そんなことは起こるはずがない、だけどもしかしたら、そんな思いでページが進む進む。
ユーリが向こう見ずに飛び出す、出先で男につかまる、カイルが救出。これの変奏をえんえん繰り返すんだけど、ベテラン漫画家が確信犯でやってるわけで、作品の求心力は感心するぐらい落ちない。むしろ展開が積み重ねられることによって、そろそろ何か起きるんじゃないか、と思わされてしまう辺り篠原千絵の手の内で完全に遊ばされた自分がいます。
私もオタクなんで、現代的な細々とした設定が押さえられてる作品も好きなんですが、こういうのも漫画の魅力ですよね。*1再発見してしまいました。
古い少女漫画的な作風と三十巻近いボリュームで敬遠される方もあるとは思うのですが、勢いのある漫画ですから、基礎情報をインプットできれば、あとはジェットコースターかと。パラパラ読むとレディコミみたいなんで、これは絶対に最初から読むべき漫画だと言っておきましょう。
良作、お勧め。

天は赤い河のほとり〔文庫〕 1 (小学館文庫 (しA-31))

天は赤い河のほとり〔文庫〕 1 (小学館文庫 (しA-31))

*1:今マガジンでやってる『花形』もいいけど『巨人の星』も違った魅力があるよねって話。