溺れるようにできている。

シギサワカヤが同時に二冊出した漫画の一方で、両作品のヒロインが姉妹関係という文字通りの姉妹作の姉の方にあたる一作。
恋愛関係における到達点とは何でしょう。お互いの全てを理解すること。それが現実で不可能だからこそ、虚構の中で完璧を求めるのだという意見もあるかもしれません。
だけど私は違う理想を見ている。互いが、分かり合えないことを分かり合うこと、相手の越えられない心の壁にぶつかりながら、それを悪と思わず尊重できる信頼関係こそ、人間が一生で手に入れられる最上のものではないかと思うのです。
そう考える人間を惹き付けるものが、この作品中には含まれている。ヒロインと遠距離恋愛中の恋人の間にあるのは、美しい事ばかりではありません。怖れがあり遠慮があり見栄がある。最も心癒されるはずの恋人の言葉が、一瞬で自分の心を刻む凶器にだってなる。
何故ならば、恋人とて結局のところ「他者」だから。どれほど想おうと、その事実は覆ることなどありはしない。だけどそれでも、恋人にに近づこうとするヒロインの行為に、私は心のどこかを震わせずにはいられません。それは滑稽すら見えるかもしれないけど、人と人が共に歩こうとした時に必要なもので。
明白なゴールなんてなくても、それを恐れてはいけないんだ。自分と違うあなたを私はきっと愛したのだから。
ポエムった気もしますが、近頃、人間関係をなーなーでやってなぁ。的なことを考えてる人には特にお勧め。ちょっと内省を迫られていい感じです。
妹作『ファムファタル』もヒロインが泥沼のように主人公を蝕んでいく楽しい作品なんで「天然じゃなくて実は計算」のヒロインがツボな人は買っとこう。
ファムファタル 1―運命の女 (電撃コミックス)

ファムファタル 1―運命の女 (電撃コミックス)

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