ライトノベル、主に川上稔をめぐる対話編

A:とりあえず入間人間の話から始めましょうか。個人的には新シリーズを読んでみたいんだよね。今の路線は、西尾御大が切り開いてぺんぺん草も残ってないと思うですよ。

B:一巻は中々だったけど。これからのヒロインは血反吐だけじゃなくてゲロも吐くぜ。みたいな身体性と窮屈な世界観が、今どきなのかなって感じもしたしね。

A:けど二巻、三巻と続くにつれて、世界観そのものは広がってるよね。部屋から病院そして学校へ。身体性の表現もスプラッタな方向に寄ってるし。

B:まあ、世界観そのものは閉鎖された特殊な空間という意味では、本当に広がってるのか微妙な気もする。登場人物を増やせという外圧に負けたと勘ぐることも出来るよね。むしろ三巻の犯人の、街=世界という言説が、どの程度の内省から来てるのかが気になるところ。

A:キャラ立て以上の意味があるのかな。だって結局は主人公に放置されちゃうじゃん犯人。巻を増すごとに主題めいたものが薄くなってる。ライトノベル的な主題が前衛化しただけなのかもしれないけど。

B:ファンタジーのお約束だよね、日常と非日常の二択は。強いてどっちか選ぶほど魅力があるのか、いまいち釈然としないけど。もともとの主題は君的には何なの?

A:日本人の感覚からすると、その状況で引っ越さない方がずっとファンタジーですから。もとの主題は、人間関係の孕む空虚さ、「友人」とか「恋人」とか言ってもさ。的なニヒリズムだと思うな。そういう意味で、二巻からのまーちゃんの使い方を失敗してる気はする。いつの間にか、ボクだけを見てくれるキミみたいなキャラになってるよね。それは違うだろうと思うわけなんですが。

B:君はヤンデレ純愛説に否定的だから。こっちとしては、流石は電撃、芸域が広いぜ。くらいの寛容な気持ちで楽しめましたよ。まあ、新シリーズに期待ということで。

A:脱西尾でいくのか、西尾風味を残したまま新境地を開拓するのか。後続の試金石という意味でも要チェックや。というわけで、そろそろ『終わりのクロニクル』の話しようぜ。萌えメソッドを作品に組み込んで、ページ数が増えるあたりが川上稔の凄いところだよね。

B:確かにしぶとくエルフ耳に執着する辺りとか素敵だと思うけど、読み直す時間も無いが、とは言え思いつきは書いてみたい、という君の卑怯な意図が見え見えです。

A:あえて否定はしませんが、「終わり」とは何ぞや。

B:禅みたいなこと言い始めましたよ、この人。あとがき準拠なら、先人達の残したもの。ということになるんでしょうね。それを終らせる話が、今作だと。

A:中二病を承知で、廃墟の廃墟とか喪失の喪失みたいな言葉を使いたくなるテーマだよね。

B:一巻はそれでもいいよ。そういう話だしね。けど、作品全体をそういう観点で見るのは強引過ぎる気がする。具体的に言えば、戸田命刻の願いが、その観点からはイレギュラーになるわけだけど、それはあんまりでしょ。

A:そうなのかな、完璧なイレギュラーであることが、喪失の喪失を一編たりとも認めないという立場が、主人公達の背負ってるものと対立するという形である以上、それほど問題ではないと思うんだけど。

B:そう思うなら考察を書け、と言っておきますよ。そこを復讐の連鎖の不毛さとか戦後調停の困難で締められるのが、大人ってもんだと思ううけどね。君の中での川上作品のテーマ性が、あまりに現実を素直に映し過ぎだと周辺から言われてますが、そこら辺はどうなんですか?

A:ライトノベルで作家論というのも、どうなのかみたいな話もあるけど、個人的には見方は多くて悪いことは無いと思う。ただ、少なくとも『終わりのクロニクル』の最終巻には、全体に対する注釈なり解説をつけるべきだった。あれだけの分量を全竜交渉という基本軸で最後まで押し切ったら、誰だって一度じゃ消化しきれない。もう一度読めというのは、信者以外には酷な要請である以上は、書いてる方が、消化しやすいように助けを入れるべきでしょ。

B:それを自分が請け負うぜ。という心構えだと捉えてよろしいか。

A:道の半ばで倒れて、後続につなげればとは思ってる。そんな感じで、とりあえず1セットづつ、感想なり考察を書いて、その後で全体のという感じで、終わクロを取り扱っていきたいですね。新巻から入った人の多少の助けになるようなものを目指して頑張りたいところ。