DDD(2)

DDD 2 (講談社BOX)

DDD 2 (講談社BOX)

普通に評価すれば、一巻より面白いし、新伝奇としては知りませんが、ラノベとして見れば中の上から上の下の間くらいの出来ではないでしょうか。
この巻のメインテーマには高校野球です。これは明らかに夏前に話題になった高野連と特待生を巡る一連のいざこざに触発された部分があることが想像に難くありません。更にヤクザも重要な部分に出てくるんですが、これは今までの奈須作品を読んでる人間からすれば驚き。
なんというか地に足が着いちゃってるわけです。固めに言い換えれば、今まで個人のドラマによって形成されていた奈須作品に、現実の社会性という新しい概念を挿入するという新たな試み。
しかし、これが成功したかと言えば実に微妙で、個人的な感想を言えば、プラス面よりマイナス面が大きかったように思えます。
もちろん一巻の評判とか、虚淵玄の小説などに考えるところがあって、多少の方向転換をした部分はあるんでしょうが、奈須小説の微妙さなんて『空の境界』から言われ続けてたわけで、あの一巻は何だったんだと読み終わってから一週間ほど釈然としませんでした。
それで思いついた一つの思案が、この小説群は私が思っているよりも大規模な模索なんだということです。一巻が小説表現に対するものだとすれば、二巻のは「琥珀→間藤桜」ラインの次の展開への模索。*1
つまり、悲劇を背負って堕ちるキャラクター像への模索なんだと思うわけです。間桐桜って共感が持てないという意見が多いキャラなわけですが、奈須きのこ内では、琥珀シナリオの拡大再生産を意図したところが当然あったと思うんですよ。
けど実際は上手くいかなかった。単純に殺し過ぎただけなのかもしれませんが、それでも同情を買えるだけの悲劇を盛り込めたと自負してたんでしょう。無理だと思ってたら、あのEDにならないだろうし。
そこで新しいファクターを入れて、「琥珀間桐桜」ラインの根幹をリライトしたのが、今作なんじゃないかと思うわけです。そういう観点から見れば、私みたいな奈須信者には堪らないところは多々ある作品ではあります。
ただ一巻ほどではないけど、二巻にも模索のために犠牲にされた部分が大きい。*2値段を考慮に入れれば、奈須語りをしたい信者とその予備軍以外は買わなくてもいいとは思います。
全四巻完結らしいけど、貪欲な作家なんだなと思う。物語の化物ですね。

*1:一巻の構成の問題は雑誌連載に負うところが多くて、実は悲劇性の追求が全体の主題である可能性もあるけど、文体とか考えると表現全体への模索は続いてる気がする。

*2:ネタバレ事実上、決着のシーンで主役が二人いる構造になったのは致命的だし、その理由が所在に社会的な記号を付けない為であると考えると、敵方の悲劇性の獲得以上に物語全体として割りを食った部分が大きい。