Evil Heart 完結編

EVIL HEART 完結編 (上) (EVIL HEART 完結編) (愛蔵版コミックス)

EVIL HEART 完結編 (上) (EVIL HEART 完結編) (愛蔵版コミックス)

EVIL HEART 完結編 (下) (EVIL HEART 完結編) (愛蔵版コミックス)

EVIL HEART 完結編 (下) (EVIL HEART 完結編) (愛蔵版コミックス)

反則気味ではありますが、何とか今月四回目の更新。『Evil Heart』というのは昔、ヤングジャンプで物語の途中で打ち切られた漫画なんですが、作者の武富智に深い思い入れがあったらしく、打ち切り後に描き下ろしの単行本である「気編」が出たという珍しい作品です。
そして完結編というのは文字通り、その後に作者がまたも描き下ろした気編の後に続く作品なのですが、作者の思い入れは何一つ間違っていませんでした。私は自信を持って言いたい。ここにあるのは年月の重みに耐えうる、強く、そして優しい物語です。
Evil Heart』は主人公である中学二年生の少年である正木梅夫(ウメ)が、その複雑な家庭環境故に、自分より体の大きな兄をどうにかする力を求めて近づいた合気道から、様々なものを受け取っていく物語です。
ウメは力を求めながら、どこかで力に怯えています。それは記憶にない父が母を殴り、それを止めようとしていたはずの兄が、その暴力の連鎖に巻き込まれていったことを、どこかで感じているからです。
それでもウメは、力に頼る以外の道を知りません。暴力を心の底で倦みながら、それに縋るしかないという矛盾。何度もその矛盾の泥沼にはまり込みそうになるウメを引き上げるのは、合気道であり、合気道を通して親しくなった人々でした。
ウメの周囲の人間たちもまた、完璧な存在ではありません。彼らも時に迷い、失敗し、ウメや仲間たちに助けられる存在です。そんな人々との交流を通して、完結編の終盤で彼は、誰かに助けるを求めることが、自分の弱さを認めることが、決して弱さではないことを受け入れます。
それでも、そこまで来ても人間は、ときに容易く憎悪の中に飲み込まれしまう。そんなウメを止めたものは、きっと一つの言葉で表せるものではないでしょう。身体に刻んだ練習の記憶や、築いてきた人との絆、直視した家族との思い出、そういった彼の中にあるものが彼自身を救ったんだと思います。
物語は最高のハッピーエンドで終わります。他の結論なんてありえない。きれいごとだと笑わば笑え、世界にはきれいごとが必要だよ。
傑作です。お勧め。