コードギアスR2 『ラグナロク の 接続』

演出の勢いにのまれて、ルルーシュもついに漢になったな、とか視聴直後は思ったのですが、考えること17分、なんとも言えない結論に達したので、少し書きます。

ルルーシュの立場は正当なのか?

皇帝とルルーシュの最後の関係というのは、デスノ劇場版の最後における月と総一郎の関係とネガポジだと考えると分かりやすい気がします。まあ、そこに共感できなくても断罪するのはルルーシュの役割であることは誰も否定しないでしょう。しかし、彼にそんな資格があるのか、何をもって自らを断罪者と任じることができるのか私は実に疑問です。

停滞を拒む者として。

ルルーシュが皇帝の野望を否定するロジックは主に二つあります。その一つが、人間の意識が一つになるような世界は閉じた世界であり、歩みを止めた世界だという主張です。この類の論はSFでは耳がタコになるほど唱えられているわけですが、これはグレーな理論です。そうであるかもしれないし、そうでないかもしれない。
少なくとも、ルルーシュにように皇帝を真っ向から否定できる強さは存在しない。それは彼らにとっても私達にとっても未知の領域なわけですから。

弱き者の代弁者として。

もう一つのロジックで、ルルーシュは皇帝とマリアンヌの思想は上からの善意の押し付けであると怒りを表します。これは確かに正しい。皇帝にしてもマリアンヌしても優れた能力を持ち、世界を背負おうと覚悟できるほどの強力な精神の持ち主で、彼らに匹敵する存在は作品世界においてほとんどいないと言っても過言ではないでしょう。
そんな彼らにルルーシュ

世の中には自分一人では出来ない事もあるって知っていたんだ。ナナリーは、ナナリーの笑顔は、せめてもの感謝の気持ちなんだ。

と一人では生きていけなかったナナリーの思想を涙ながらに訴えるわけです。けどこれは、ルルーシュの思想ではない。この優しい嘘を否定し、ギアスの力によって築かれた血の道を歩んできたのがルルーシュであって、ナナリーの死後ですら迷いもなくギアスを使い、多くの兵を死に追いやった人間が、この思想の代弁者たる資格は1ミリだってない。彼が恥とも思わず、ナナリーの思想を代弁する事自体がそれを証明していると私は思います。

ルルーシュが何度も繰り返した言葉。

私は、ルルーシュの心因はこの記事に書いたようなもんだろうと思ってたし、読みとしては大筋では当たってたと自画自賛してるんですが、だからこそ、ルルーシュが繰り返した言葉にはガックリせざるえなかった。
ルルーシュは一度ではなく三度も皇帝に向かって「お前らは俺とナナリーを捨てたんだ。」と言います。それは確かに、ルルーシュにとっては重大な出来事かもしれませんが、この死屍累々の状況の中で、特筆するべきことではない。けど、ルルーシュにとっては他の多くの出来事より、この事実を主張することが大切なわけです。

捨てられた皇子という「物語」

それが何故かと言えば、この事実だけがルルーシュを「被害者」における「物語」だからなんでしょう。この男は、この後に及んで、自分の行為の全ての責任を背負う覚悟がないんですね。
別に彼が捨てられたことは否定しません。それで親を恨むのも自由ではあります。ですが、それを自分の行為のエクスキューズに使うことが許される範囲なんてとっくに過ぎてるわけです。
どんな言葉を重ねても、ルルーシュは「加害者」でしかありえない。スザクがそれを一番分かってるはずなんだけどなぁ。
ルルーシュは「人と人とは分かり合えるはず」だと言ったナナリーを代弁しながら、両親と分かり合おうとする素振りすらみせません。もしルルーシュが本当にナナリーの思想を体得しているなら、両親に一度でも手を伸ばそうとするはずです。しかし、彼は自分達への愛を語る両親の言葉を真っ向から否定します。

赦せないことなんてない、赦さないだけ。

そう言ったのはシャーリーですが、ルルーシュは最後まで皇帝を赦せなかった。

個人的にルルーシュに期待していたこと。

だけど、私はやっぱりルルーシュに皇帝たちを赦して欲しかった。それが独善だとしても、皇帝たちは皇帝たちなり自分達のことを考えていたんだと認めて、自分の行為の全責任を何一つ正当化せずに、一瞬でもいいから引き受けて欲しかった。その上で、自分や皇帝たちのような存在には、世界をどうこうする資格などないんだって、そう言って欲しかった。
これからそうなるんだろうから問題無いという意見もあるでしょうが、ブリタニアの少年・ルルーシュの物語はこの回で終わりです。だってナナリーを守り、母の死の謎を明らかにすることが、彼の目的だったんだから。これから先の物語は、もう別ものでしかありえません。これからルルーシュがどんな悲惨な結末を迎えようと、それで今回の終わりが覆るわけではない。
ルルーシュの「物語」は父親に捨てられ悲劇の皇子として始まり、両親に捨てられた可哀想な皇子として終った。虚しい、あまりにも虚しい。誰もルルーシュにそんなことを望んではいなかったというのに。