キャンディリミット

人類に馴染み深いオブセッションを「裏帳簿」を通して表現した経営シミュレーション。
傑作。
以下、ネタバレ注意。


現実世界では実際の経営活動を抽象したものとして財務諸表その他の数値が立ち現れるけど、経営シミュレーションゲームの世界って結局は先に数値ありきだよね。というグウの音も出ないツッコミをエレガントにかましてみせた作品なのだと思う。
ある時期のシナリオ系のエロゲの淫した身としては、プレイヤーとプレイヤーキャラクターの「視線」が最後まで明確に重ならなかったことに、ある種の不徹底さを感じなくもないけど、作品の方向性を考えれば、この方がいいのだろう。
プレイヤーにとっての数値は作品世界を認識するための最も基礎的な要素であるため、そこに欺きが介在すると作品世界そのものが根本から歪んでしまったような印象を受ける。だが、プレイヤーキャラクターの視点からすれば、数値は実際に行われている営みを抽象化しただけのどこまでも付属的なものに過ぎないのだ*1
数値の向こうに蠢くプログラムを透視して水槽の夢に怯えるくらいなら、ありもしない世界に希望を視た方が幾分か生産的であることは間違いない。目の前の世界が塗り替わるかもしれないという不安と恍惚に満ちた悪夢に、一部の人間はいつまでだって魅せられ続けるわけだけど。*2

*1:そもそもキャンディが数値を確認しているのかすら疑問の余地がある。

*2:念のため書いておくと、経営ゲーとして面白いかどうかは置いておいて、作中の会計システムそのものは明朗である。リソースの増加量が累計で計算されるところと、その使い道に選択肢がないのが少し特殊だけど、最後のレシピありきってことだと思うし